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テレビ会議教室
6.標準化について【標準化の今後の課題1】

6.標準化について【標準化の今後の課題1】

前回までは、標準化活動の流れや規格(勧告)についてご説明いただきました。今回は標準成立の成功事例や今後の標準化活動などについてお伺いします。

大久保先生

前々回にお話ししたFAXが成功例です。 それから、我々の身近なところでの標準化成功例はMPEGでしょう。いまやテレビジョン放送は、世界中がMPEGで揃っているといえます。
MPEGがデジタル放送に使われたのは大きいですね。それが弾みになって、いろんなところで採用され、膨大なマーケットを作り出したと思います。


ただ、テレビジョン放送にはデジュール標準の要素があるため、通信とはいささか事情が異なります。日本の場合だと、電波法や総務省令などによる規制です。もちろんすべてを国が決めているわけではありませんが、テレビジョン放送は電波法に従って電波を出さなければならないので、総務省の規制をはずれることはできないのです。それは他国でも同じです。
そのため、標準の意義がテレビ会議などに比べるとより大きく、標準化されていないと話にならないということがあります。

MPEG標準によって放送の市場規模が大きくなったのならば、テレビ会議システムもそうなるべきと思うのですが、それが実現しないのはなぜでしょうか。

大久保先生

テレビ会議システムの問題は、ベースになるのがネットワークというところです。ネットワークにはコネクティビティの特性というのがありますが、これがいまのところ十分ではないように思います。


ネットワークのインフラは、IPが主流になりつつあるのは事実ですが、IPにはかなり制約があって自 由自在にどこでもつながるわけではありません。IPを最初に考案した人は、どことでも誰とでも自由につなげるという構想が基盤にあったのだと思います。善 意に基づいた限られた人々の中で使用することを想定していたため、セキュリティもスパムメールの類も恐らく予測されていなかったでしょう。しかし、現実に はその意に反して、セキュリティ面やスパムメールなど思いもよらない弊害が出てきました。
テレビ会議システムの現在の課題は、その対策として設けられたNAT/Firewall越えとQoS(サービス品質)確保の2点ではないかと思います。

NAT/Firewall越えは、NATの仕組み上、内側から外側への通信はできますがその逆はでき ません。そのため、時として通信できないことがあるのが問題です。そもそもNATには様々な手法があって、標準化されていません。またH.323では動的 にポート番号が変わるため、Firewallを通過できないのです。
この課題をクリアするために、ノルウェイTandberg社、米Polycom社、イスラエルRADVISION(現Avaya)社が共同で、H.323のNAT/ファイアウオール越え方法を提案しています。これは2005年9月には勧告として成立する予定です。
もう1つの課題であるQoSについても、H.323に特化した仕様が2006年春には勧告化されるでしょう。QoSを確保するには、プロバイダとTV会議 システムとでネゴシエーションが必要になります。それがうまく実現されるかどうかは、今後の運用やサービス契約に委ねられています。


いずれにせよ、IPをベースにしたネットワークで、かつどことでもつながるものが必要ですね。ITU-TのNGN(Next Generation Network)やIETFの次世代のインターネットがそれにあたると思います。

コネクティビティ

ネットワークの接続性のこと。たとえ通信速度が低速でも情報を端末から端末に転送できることが最も重要です。これを、接続性(Connectivity)の確保と言います。

IETF(Internet Engineering Task Force)

TCP/IPなどのインターネットで利用される技術を標準化する組織。ここで策定された技術仕様はRFCとして公表されます。

5年前にH.323が市場に登場した頃は多少のトラブルもありましたが、いまではH.323も“枯れる”というレベルまできたような気がします。今後の標準化活動はどのようになっていくのでしょうか。

大久保先生

標準化にもライフサイクルというのがあります。これまでH.323に長く関わってきましたが、H.323の次ということになると、どうしていいのかはっきりしていません。この次に標準化団体として何をやっていけばいいのかが非常に頭を悩ませるところです。

いまネットワークに携わる人たちは、次世代ネットワークNGNという標語を掲げています。NGNと現 在のIPの大きな違いは、NGNにシグナリング・プロトコルが内包されていることです。IPのネットワークにはシグナリング・プロトコルがありません。 H.323はそれを自ら作った、それがVoIPに使われた、ということで盛り上がったのです。
アプリケーション側からすると、NGNが実現すればシグナリング・プロトコルはもう自分たちで考えなくていいということになるわけです。成熟した標準に 従った商品が出てきて、いつでもどことでも繋がるというのはサービスや利用者にとってみればいいことです。そして、これがまさしく標準化の目指したところ なわけですから、それはそれでたいへんいい結果です。


実は標準化としては、ライフサイクルが1周したといいますか、ひと通り成熟してきた感があります。し かし標準化機関であっても普通の会社と同様に、現在手がけているものが終わったら次へ、それが終わったらさらに次へというように動かざるを得ません。だか ら何かをやらなければならないというのがITU-Tの考えなんですが、ではどうやるべきかということになると大いに悩んでしまいます。
ちょうどNGNの気運が盛り上がっているところですので、それに合わせて「NGNにマッチしたオーディオビジュアルマルチメディア通信というのはどういう ものだろう。そういうものを考えようよ」という話があったり、またグループの中には「これまで標準を作ってきた上で学んだ様々なことを、次の世代に反映し たい。それならどういうものがいいんだろう」という視点もあるんですね。
そこでNGNとからめながら、「NGNに合わせた理想なシステムとはどのようなものか」という形でプロジェクトがスタートしました。コードネームを H.325といいます。この名称は、これまでのH.320、H.321、H.322、H.323、H.324という流れがありますので、次に出てくるもの として自然にH.325になりました。


これまでの歴史を振り返ると、80年代の終りまではISDNしかなかったので、非常に標準化しやすい時代でした。
次の90年代には、ISDNで得た知見や経験をいろんなネットワークに展開しました。アナログ電話網やモバイル、ATM、IPなどの上で、テレビ電話やテレビ会議を展開できるようにするにはどうしたらいいかということですね。
しかし、いまやネットワークはIPにほぼ集約されてきています。NGNもIPベースです。
「ネットワークが変わるのにあわせて新しいプロトコルを作りましょう」というのは、非常に素直な発想です。しかしもしかすると、それは成熟するに至らない ネットワークかもしれませんから、慎重になることも必要です。その一方で、オーディオビジュアル通信システムの「次世代を考えるならどういうのが理想的だ ろうか」とか、「今の時代を反映するならどのようなものが望ましいのだろうか」ということを考える絶好の機会でもあります。


また、新しいプロトコルを作る上で問題となる1つ目は、バックワード・コンパチビリティです。バック ワード・コンパチビリティというのは、一度成立したプロトコルは保護し、新たに成立させるものは必ず既存のプロトコルと相互接続できるようにすることで す。ITU-Tではこれが絶対のガイドラインです。
通信の最初にネゴシエーションを行いますが、新しいプロトコルと古いプロトコルを接続する場合、新しいプロトコルから古いプロトコルにフォールバックして 相互接続を成立させるのです。幸いなことに、テレビ会議システムのチャネルは双方向なのでこのようなプロセスによる接続が可能です。これまでITU-T は、このバックワード・コンパチビリティを抜きにしては考えられないとしてきました。しかし時代が進むにつれ、それが重くなっているのも事実なんですね。
具体例としてあげると、ビデオ符号化にはH.261、H.263、H.263+などがあります。現在の最新はH.264ですが、新たに参入しようとする メーカーは、それらのプロトコルをすべて製品に搭載しなければなりません。それがだんだん足枷となって、新たな参入の負担になってきているのです。
オーディオについても同じことが言えます。オーディオにもたくさん標準があって、佃煮にできると冗談にいわれるほどの数です。G.711というのがデフォ ルトなので、これにすべてフォールバックできるというのが設計思想なんですけれども、少しでも商品の品質改善を行おうとすると、これまで定義されたプロト コルにもすべて対応しなければならないので、その対策が1つの課題になります。


2番目の問題はそのネゴシエーションです。H.245の設計思想的には、すべてのオーディオビジュアルマルチメディアに関わる制御機能を包含するというのがあるんですが、これも肥大化してきているので、もう少しなんとかならないものかと言われています。


3番目はPCベースのWeb会議が、ある意味、標準には馴染まないかもしれないが相互接続の手法的に は面白いアプローチを取っていることです。Web会議のマーケットはかなり垂直統合的になっていますし、Web会議の定義にもよりますが、ブラウザの上で 何でも実現するという「ブラウザが相互接続性の鍵」になっているように思えるんですね。またオーディオやビデオなどがダウンローダブルになっています。そ ういうものは、これまでの標準化のアプローチにはありませんでした。


このようなWeb会議も考慮して、次世代への対策を考えなければならないかもしれないという検討も始まっています。

NGN (Next Generation Network)

次世代ネットワークNGNは、アクセス手段やメディア種別に依存することなく、すべてのユーザーに対してデータ配送やディレクトリサービス、認証サービ ス、位置情報サービスなどを提供し、テレビ会議や家電管理などの高度なコミュニケーションサービスを実現するIPベースのマルチサービスプラットフォーム のことです。
ITU-TではSG13 (Study Group 13、第13研究員会)を中心に総力をあげてNGNに取り組んでいます。

シグナリング・プロトコル(Signaling Protocol)

シグナリング・プロトコルとは、通信しあう端末が、相互に必要とする帯域を予約するために信号を交換すること(シグナリング)によって、帯域を確保する通信手順のことです。シグナリングプロトコルにはH.323とSIPがあります。

次回は引き続き、「標準化について【標準化の今後の課題2】」を掲載します。

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