【基礎知識編】MCUで何ができるのか?

第4回 「ハードからVMへ」アプライアンスタイプMCUの現状を知るVTV PLUS
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テレビ会議システムの利用方法として、5拠点(台)・10拠点(台)と複数拠点のテレビ会議システムを同時接続しビジュアルコミュニケーションする「多地点接続」という手法は、企業内で一般的に行われています。その多地点接続は「MCU(多地点接続装置)」と呼ばれるアプライアンスサーバーを自社内に導入し、利用されるケースがほとんどです。
ですが各メーカーよりMCUのメーカーサポートが終了されたり、MCU自体が販売終了になったりと、テレビ会議市場におけるMCUの立ち位置に変化が起こりつつあります。

今回のVTV PLUSでは、そもそもMCUとはどんな製品なのか、MCUの歴史、トレンドとなっているテレビ会議クラウドサービスとの違いや、MCUの現状をご紹介いたします。

MCUの基礎知識/MCUはどんなことができるのか?

従来、テレビ会議システムを3台(拠点)以上接続する手段として、2つの方法があります。
ひとつは、テレビ会議システム本体にソフトウェアとして搭載する「内蔵多地点機能」です。
最近のシステムですと、最大24台(拠点)接続が可能なものが登場していますが、この仕組みは内蔵多地点機能ソフトウェアをインストールした「親」となるテレビ会議システムに「子」となるテレビ会議システムが接続し「1会議」を開催することができます。

ですので親が6拠点接続の会議を開催していると、残りの18台は1対1の接続しかできません。内蔵多地点接続運用で2会議、3会議の多地点接続を同じ時間帯に開催したいニーズがあるとソフトがインストールされた「親」になるテレビ会議システムを増設しないといけません。

テレビ会議システム多地点接続

「もっと沢山の拠点を接続させたい」
「同じ時間帯で複数の会議を開催できる運用にしたい」
「親・子と関係なく自由に多地点会議を開催したい」

などの内蔵多地点機能では運用不可能なニーズを解決するのが【 MCU(Multipoint Control Unit/多地点接続装置) 】です。

MCUの構成

MCUとは日本語で「多地点通信制御装置」と表記されることもあります。
各地点のテレビ会議システム端末は、それぞれにMCUと1対1接続し、MCUを介して多地点間相互の会議を可能にしています。各地点からの映像、音声、その他の情報は、MCUでいったん受信のうえ復号し、MCUはある地点に対しその地点を除く全地点からの情報を合成あるいは切り替えて返送します。各端末からは、あたかもMCUとポイント・ツー・ポイントの通信をしているように見える事になります。

すなわち、MCUは各端末のプロトコルを終端し、合成・切替後の信号を送出先の端末に応じたプロトコルに変換する機能を持っていることになるので、異種端末(メーカーの違うテレビ会議システムなど)であってもMCUに収容することができ、多地点テレビ会議への参加を可能にします。大規模な会議ではMCUを複数台接続して収容端末を増やす構成を取ります。
MCUを介した多地点テレビ会議システムは、小規模な会議から大規模な会議まで端末装置に変更を加えることなく柔軟なシステムを構築できることが特徴ですが、MCUで音声、映像を復号し、合成後再び符号化するため、品質劣化、遅延の増加をともなうことに注意が必要です。

それではアプライアンスタイプMCUと、多地点会議に必要なインフラ製品の基本構成を見てみましょう。

アプライアンスタイプMCU 多地点会議に必要なインフラ製品の基本構成

① MCU

テレビ会議の多地点接続の通信を制御するサーバーです。MCU内ではVMR(仮想会議室)と呼ばれる会議室に、テレビ会議専用機が複数台接続され遠隔会議を行う事ができます。
MCUでは何台テレビ会議が接続できるのかを測る「ポート」と呼ばれる単位があり、例えば「12ポートのMCU」は12台のテレビ会議を同時に接続することができます。

1VMR(仮想会議室)に12台接続する事もできますが、「A仮想会議室に4台」「B仮想会議室に3台」「C仮想会議室に5台」、合計12台接続といった運用方法で、同時刻に複数会議室で複数台接続しながら利用することができます。また12台以上の接続ニーズが出てきた際はMCUをもう1台導入し、カスケード接続してポート数を増やすことができます。

② 管理・予約サーバー

VMRを作成したり、VMRの予約を行うためのサーバーです。管理機能では、仮想会議室それぞれのコンフィグレーション(設定)を行ったり、月々や週単位でどれぐらいMCUで行われるテレビ会議が開催されているか、などの利用統計を見ることができます。またメーカーによっては現在行われている会議を監視したり、全拠点一斉にマイクミュートするなど制御を行う事ができます。

予約機能に関しては、グループウェアでスケジュールを入れるような感覚で会議名、開催日、時間、接続拠点などをあらかじめ予約し、会議時間になったらMCUから一斉に呼び出され、会議参加者(拠点)はテレビ会議システム本体の電源を入れておくだけで自動接続(コールアウト)してくれる機能なども搭載されています。

③ Firewall・NATトラバーサルサーバー

テレビ会議システム専用機を使った遠隔会議は、企業のプライベートネットワーク(閉域網)で運用されるケースが多いのですが、社外のテレビ会議システムと遠隔会議を行うニーズがある場合、Firewall・NATトラバーサル機能を持つサーバーを準備する必要があります。社外のテレビ会議システム専用機はグローバルIPアドレスに設定しておき、Firewall・NATトラバーサルサーバーに設定されたグローバルIPアドレス+会議室番号へコールします。

インターネット経由でDMZ(DeMilitarized Zone/インターネットなどの信頼できないネットワークと、社内ネットワークなどの信頼できるネットワークの中間に置かれる、ネットワーク領域)内に設置されたFirewall・NATトラバーサルサーバーに接続し、社内のローカルIPアドレスに変換され、社外にあるテレビ会議システムでも、社内ネットワーク配下にあるMCUの指定された会議室へ入室することができます。

④ PC・Mobile GW

パソコンやタブレットを利用してテレビ会議に参加する場合、PC・Mobile GW(Gateway:ゲートウェイ)を経由してMCUに作られたVMRへ参加します。テレビ会議システムはH.323という通信プロトコルを利用しているのですが、パソコンやタブレットではSIPと呼ばれるプロトコルを使って通信します。

ですので、テレビ会議システムと同じH.323にプロトコル変換するためにPC・Mobile GWが必要になります。この図ではDMZ内にPC・Mobile GWが設置されていますが、社外との接続は行わず社内のプライベートネットワーク内だけで運用するのであれば、DMZに設置する必要はありません。

⑤ ISDN GW

ISDNの電話回線を利用してテレビ会議システム専用機の参加、もしくは電話機・音声会議システムから音声だけで会議に参加する場合、ISDN GWが必要になります。こちらの場合もISDNでテレビ会議と通信する際はH.320というプロトコルを利用するため、H.323に変換する必要があります。
電話回線を使用するので、通信を始めた側(電話をかけた方)に通話料が発生します。日本国内では2024年1月にISDNサービスが終了される予定です。

⑥ 録画サーバー

VMR内で開催されているテレビ会議内容を録画したい場合、録画サーバーを準備する必要があります。録画された動画は、YouTubeの様に録画サーバー内でアーカイブされ、映像、音声にプラスして会議中に送受信された資料共有(H.239)の映像も同時に録画されます。
メーカーにより数値は異なりますが、録画容量に制限があるため、mpeg4などの動画形式でダウンロードし、常に管理する必要があります。

MCUの歴史を探る

【2009年以前】アプライアンスタイプMCU製品の普及

テレビ会議システムで多地点接続を行う多地点接続装置はかなり高額だった為、一部大手企業にしか導入されず、ISDNで接続されるテレビ会議多地点接続ASPサービス利用が多かったのですが、ハード(筐体)がコンパクトになりMCU自体の設定や設計も容易になり、且つ価格も安価になったことで、オンプレミスで運用できるアプライアンスタイプのMCUが普及され始めました。主力製品としてPolycomからは「Accord」や「MGC」、Avayaの前身RADVISIONから「viaIP」、Ciscoの前身TANDBERGは「MPS」などのMCUが企業で利用されていました。

通信手段はISDNが主流で電話回線を利用する為、通信(通話)料が発生しました。アメリカとテレビ会議を行う場合は、7分で約1,000円(1回線=1BRI:64Kbps)程の国際電話料がかかってしまいました。64Kbps通信のテレビ会議の映像は、ほぼ静止画に近い状態ですが、現在はIPで通信を行っているので、1BRIの16倍1Mbps(1024Kbps)で通信した場合でも通信料は必要なく、HD(720P)画質で30fps(1秒間に30枚の静止画像が処理できる)、またそれ以上の高精細なテレビ会議を行う事ができます。

【2012年】Web会議及びMicrosoft Lync連携

テレビ会議とWeb会議を別々に導入し併用利用する企業が非常に多く、社内と社外でビジュアルコミュニケーションする手段を分けて利用されていました。理由は、テレビ会議システム専用機とパソコンをベースとしたWeb会議システムの仕組みが、技術的に接続できなかったのが大きな理由です。また社内外とのテレビ会議接続は当時、まだ高価だったテレビ会議システム専用機を外部の企業にも導入して頂く必要があったのと、グローバルIPアドレスをテレビ会議システム専用に準備して頂く必要があり、手間や労力、経費などに問題がありました。

このような背景とプラスして社内セキュリティ面も考慮し、社内は信頼あるプライベートネットワーク配下に導入したテレビ会議システムを利用し、社外とはビジュアルコミュニケーションの品質は落ちてしまいますが、クラウド(インターネット上)に接続サーバーが準備され、安価で手軽に利用できるWeb会議システムサービス等を利用していたというのが、二つ目の理由です。

しかし、技術進化による機能向上とオンプレミスインフラ製品の普及に併せて、アプライアンスタイプMCU製品の普及も更に拡大しました。この頃からPolycom「PVX」、TANDBERG「Movi」、Cisco「Jabber」、RADVISION「SCOPIA Desktop」など、パソコンをデバイスとしMCUのVMRへテレビ会議参加できる仕組みが発表され始めました。また「Webex」やMicrosoft「Lync」などWeb会議システム分野とテレビ会議が連携できる仕組みも登場し始めてきました。

【2015年】日本市場におけるクラウドサービスと、オンプレミス製品の仮想化

アプライアンスタイプのMCU製品でしか対応出来ていなかった「マルチデバイス接続」を、海外メーカーがクラウドサービスとして日本市場でも提供を開始し、主にWeb会議、及び内蔵多地点接続を利用していた中小企業を中心にクラウドサービス利用が広まり始めました。
また仮想サーバー上でのシステム運用がIT市場で標準となり、以前よりアプライアンスタイプMCUを利用してきた大手企業では、テレビ会議システムも同様に仮想サーバー上での運用へ移行し始めました。

現在ではMCUが必要とする機能は、仮想サーバー上で稼働するソフトウェアと進化し、専用の筐体を持つアプライアンスタイプのメジャーなMCUはPoly(旧Polycom)「RMXシリーズ」と、Cisco「Cisco Meeting Server(CMS)」の2タイプとなってしまいました。

【2019年】大手企業のクラウドサービス導入

働き方改革におけるコミュケーションの多様化が、大手企業のクラウドサービス導入への引き金となり、アプライアンスタイプMCUの運用からクラウドサービス利用へ乗り換える企業が増加しています。クラウドサービスが提供するマルチデバイス接続機能だけでなく、いつでもどこでも容易に使えるビデオコミュニケーションを必要としていることが時代背景から明確になってきました。
このトレンドからMCUを発売していたテレビ会議メーカーも、アプライアンスタイプMCUの販売終了、またMCUのメーカーサポート終了とテレビ会議クラウドサービスをベースにした考え方にシフトし始めています。

アプライアンスタイプMCUの販売・サポート終了情報

しかしクラウドサービスは、サービス提供側の運用方法やセキュリティに依存されてしまう為、企業独自のテレビ会議運用やネットワーク環境、セキュリティポリシーが固まっている際はクラウドサービス利用が難しく、仮想サーバーにアプリケーションをインストールして運用するソフトウェア型MCUをテレビ会議システムの多地点接続手段として利用する企業も少なくありません。

このような時代背景の中、注目される「クラウドサービス」ですが、アプライアンスタイプMCUとテレビ会議クラウドサービスの違いはどこにあるのか? を次の章で解説したいと思います。

クラウドサービスとの違いは何か?

次にアプライアンスタイプMCUと、テレビ会議クラウドサービスとの違いを見てみましょう。運用面・カスタマイズ面・拡張性・ネットワークセキュリティ・運用開始までの時間・コストといった「6つ」の項目から比較してみたいと思います。

アプライアンスタイプMCUとテレビ会議クラウドサービスとの違い

上表から見ると、若干ですがテレビ会議クラウドサービス側に丸印が多くつけられています。ですが、アプライアンスタイプMCUからクラウドサービスへ移行する際、注意しなければいけない「大きな課題」が潜まれています。

『ネットワークの課題』
テレビ会議システム専用機を社内ネットワークからクラウドサービスへ接続させるためのネットワーク整備が必要
パソコン接続において、プロキシサーバー経由では映像音声品質が低下するため、ファイヤウォールの設計見直しが必要

『運用の課題』
現状の運用を変更しなければならず、自社に合ったクラウドサービスの選定と運用デザインの設計が必要
クラウドサービス側でのアップデートに臨機応変に対応できる仕組みが必要

『セキュリティの課題』
選定するクラウドサービスのセキュリティポリシーを理解し、会議ID及びパスワード変更等、運用に取り組むことが必要
テレワーク及び社外との接続におけるセキュリティも当然の事ながら、社内においてもエグゼクティブ会議へのセキュリティ対策が必要

『管理者負担の課題』
選定するクラウドサービス及び運用次第で管理者負担の大小は異なる
パソコンやモバイル端末利用において、カメラ及びマイクデバイス及び、社内社外でのネットワークに関する問合せや不具合対応のスキームを事前に固めておく事が必要

このようにクラウドサービスだから安価、手軽、簡単といった理由だけで乗り換えてしまうと、サービス加入後に思わぬトラブルと遭遇してしまいます。自社にとって何がベストなテレビ会議運用なのか?を充分検討し、次のテレビ会議多地点接続のプラットフォームを選定する必要があります。

アプライアンスタイプMCUとテレビ会議クラウドサービス、それぞれの特長を理解していただけたと思います。
このような背景の中、アプライアンスタイプMCU構成はハードウェアから仮想化へ移行され始めています。

次の章ではアプライアンスタイプMCUの現状を解説いたします。

MCUはハードウェアから仮想化へ/アプライアンスタイプMCUの現状

アプライアンスタイプMCUでは、その筐体に応じて接続ポート数が決まっており、現在利用できるポート数より多くのテレビ会議システムを接続させるためには、新たなアプライアンスタイプMCUを導入し、MCU同士をカスケード接続しながらポート数を増加していました。
また事業所の合併や拠点の規模縮小など、逆にポート数が減った場合、MCUのポート数は固定されているのでポートを減らしての運用は不可能です。さらにテレビ会議システムの通信は、映像・音声・資料共有などのデーターをリアルタイムで双方向通信しているため、サードパーティー製のサーバーですと非常に重たいデータ処理を行わなければならず負荷がかかってしまうため、テレビ会議メーカーから発売される専用のMCUを利用しなければいけませんでした。

ですが時代が進むにつれ、サードパーティー製のサーバースペックの向上と、アプリケーションレベルでテレビ会議システムの情報処理が可能になる技術進化に伴い、VMwareもしくはHyper-Vなどの仮想サーバー上にMCU機能を持つソフトウェアをインストールすることで、さらにグレードアップしたMCUを自社内で構築することが可能となりました。
またそのソフトウェアは、仮想サーバー上に構築されるVMR(仮想会議室)に何台(拠点)接続したいのか、社外とのテレビ会議システム専用機との接続は必要か、パソコンやモバイル端末が接続できる環境は必要か、会議録画の機能は必要か、などテレビ会議運用に必要な機能のソフトウェアをサブスクリプション契約(ソフトウェアのライセンスを年間、もしくは複数年で使用契約)してご利用いただけます。

ですので、アプライアンスタイプMCUでは出来なかったポート数の増減なども、利用者や企業のニーズに応じてカスタマイズしながら運用することができます。さらにAWS(アマゾン ウェブ サービス)やMicrosoft Azureなど、クラウドコンピューティングサービスをプラットフォームにすれば、プライベートクラウドとして社内外とのテレビ会議多地点接続運用を行う事が可能です。

クラウドコンピューティングサービスを利用する多地点接続運用

最後に

MCUの時代背景や仕組み、クラウドサービスとの違いやアプライアンスタイプMCUの現状まで、MCUにまつわる内容や情報を再確認頂けたと思います。アプライアンスタイプのMCUからテレビ会議クラウドサービスへ運用を変更される企業が多い中、企業ポリシーやネットワーク条件などの要因で、MCUなどのサーバー群は社内ネットワークに設置する事が必須な企業も少なくありません。

次回のVTV PLUSでは、VTVジャパンがソリューションする「Avaya(アバイア)」「Pexip(ペクシプ)」と、仮想環境にソフトウェアで構築する次世代型MCUをご紹介いたします。