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テレビ会議ホーム > テレビ会議入門 > 大久保先生に聞くテレビ会議教室 > 8.テレビ会議に関わる人間要因【映像1】

8.テレビ会議に関わる人間要因(ヒューマン・ファクタ)【映像1】

システムが安全かつ効率よく目的を達成するために、考慮しなければならない人間側の要因をヒューマン・ファクタといいます。今回からはテレビ会議システムに関わるヒューマン・ファクタについて、数回に渡ってお伺いします。

テレビ会議システムに関するヒューマン・ファクタの研究は、どのように始まったのでしょうか。

大久保先生

もともとはテレビ会議システムの開発研究者たちが、“テレビ会議をいかに使いやすくするか。そのためにどのように製品デザインを行うか”というところからスタートしていると思います。
以前少しだけ、日本電気の佐藤さん達が行った「ディスプレイとカメラの位置」という著名な実験の話に触れましたが(第1回「大久保先生の活動紹介」参照)、この佐藤さん達はテレビ電話の開発者です。テレビ電話を作る上で、カメラをどの位置に置くのがいいのだろうかということからデータを取られたんだと思います。
しかし、結局テレビ電話はあまり一般に受け入れられず、次にその技術をテレビ会議に応用しようということになりました。そこで今度は、テレビ会議をより使いやすくするにはどうすればいいのかと、研究対象が移っていったということですね。

しかし最近では、テレビ会議に関するヒューマン・ファクタの研究も徐々に一般化してきて、たとえば大学の研究機関などで研究が行われるようになりました。このような研究機関では、別に研究の成果をシステムに生かそうなどと考えているわけではなくて、社会心理学的な興味から手がけているんだと思います。もちろん、メーカーなどから依頼されることもあると思います。



テレビ会議の製品開発には、ヒューマン・ファクタが生かされているのですか。

大久保先生

テレビ会議のヒューマン・ファクタは、大きく3つに分けられます。
「映像に関するもの」「音声に関わるもの」「映像と音声の相互関係」の3つです。たとえばリップシンク(映像と音声の同期)は、3番目の映像と音声の相互関係に分類されます。

まずは映像に関する「視線の一致」についてお話しします。これは、日本電気の佐藤さん達が実験していたものです。

テレビ電話は相手を見ながら話をします。
ディスプレイに映る相手の映像を見て、自分を写すカメラから見られますので、なるべくその視線が一致する方がいいわけです。佐藤さん達は、この視線のズレがどの程度なら許容できるかということを最初に研究したグループです。その成果が図1で、これはベル研究所が1971年に出版した「Bell System Technical Journal」に記載されました。

ベル研究所は、米国最大の電話会社であるAT&Tが設立した研究機関です。1996年にAT&Tの通信機器、半導体製造部門が分離独立してルーセント・テクノロジーとなり、現在はルーセント・テクノロジーに属しています。センターオブエクセレンス(centre of excellence)で、ノーベル賞受賞者も何人か輩出しているという非常に権威のある機関です。
そのベル研究所の機関論文誌の中に、佐藤さん達の仕事が引用されているということは、ベル研究所の人たちに評価されているということです。これは日本として、誇っていいことなんじゃないかと思っています。

カメラ位置-視線の一致
図1:カメラ位置-視線の一致
(画像をクリックすると拡大表示されます)


最近のハーフミラー利用例
図2:最近のハーフミラー利用例
(画像をクリックすると拡大表示されます)

視線の一致を実現させるために考案されたのがハーフミラーで、図1の上部の仕組みがそれにあたります。カメラの軸線上に45度の角度でハーフミラーを置いて、映像を下からハーフミラーに透過すれば、相手画像を見る視線と自分を撮影するカメラに見られる視線を一致させる事ができます。図2の右上の写真が、視線が一致している状態ですね。

ハーフミラーを使わない通常のシステムが、図1の下部の仕組みです。カメラはシステムのどこかに置かなければならないのですが、どこに置いたとしても相手の映像を見ようとすると、自分を映すカメラと視線がずれてしまい、視線の不一致が生じるわけです。これは避けられません。

ハーフミラーは非常に古くから知られている技術で、日本にも1937年にハーフミラーを使った視線一致型のテレビ電話がありました。
それ以後、現在に至るまで繰り返しトライされている技術でもあります。テレビ会議システムの初期である1970年頃にもハーフミラーを使ったシステムが登場しましたし、ブロードバンドISDNと呼ばれていた1990年代にも、昨年(2004年)にもあります。2004年のシステムは、2004年の米国ウェインハウスリサーチレポート(The Wainhouse Research Bulletin)に掲載されています。

ではなぜハーフミラーがシステムの主流にならなかったかというと、いくつかの問題があったからです。それが下記の3つです。

  1. 装置がかさばる。
  2. 箱の中をのぞいたように、映像が奥まって見える。
  3. カメラが奥にあるので、システムの真正面にいないと写らない。

1番目については、1970年代にはディスプレイがCRTしかなく、カメラも撮像管だったという理由があります。だからどうしても装置が大柄になってしまいます。
2番目は、ディスプレイが透過的に45度傾けた位置に投射されることになるため、表示する面が少し奥まった位置になります。図2の右下や左の写真を見るとよく分かります。また、ハーフミラーなので光が減衰するという弱点もあります。
3番目はシステムの構造的な問題です。

ただし、現在はディスプレイも平面型になりましたし、カメラの方もCCDになりました。そういう技術やコンポーネントが進歩したことを考えると、もう一度ハーフミラーのシステムに挑戦してもいいかもしれません。
ウェインハウスリサーチレポートには、2005年6月にも「Equant (France Telecom) Introduces RealMeeting」としてハーフミラーのシステムが紹介されていました。このシステムは、非常に大きなディスプレイを部屋に作りつけるような形になっていて、後ろから投射してミラーで2回反射させるため、正面から見ると左右も正しく見えるようです。

Equant (France Telecom) Introduces RealMeeting
図3:Equant (France Telecom) Introduces RealMeeting

出典:「The Wainhouse Research Bulletin」Vol. 6 #25, July 26, 2005


Equant (France Telecom) Introduces RealMeeting
図4:Equant (France Telecom) Introduces RealMeeting

出典:「The Wainhouse Research Bulletin」Vol. 6 #25, July 26, 2005



視線の一致と言うのは、テレビ電話の開発が行われた初期からのテーマだったのでしょうか。

大久保先生

そうです。
わたしが携わった70年頃には、すでに佐藤さん達の研究成果は出ていましたので、テレビ会議システムにはそれを参考にしました。

これは余談ですが、このハーフミラーの仕組みは、テレビのニュース番組でも使われています。キャスターがニュースを読むときに、目の前のディスプレイに表示される原稿を読むんですけれども、そうすると視聴者の方に向かって話しているように見えるんです。キャスターの瞳をよーく見ると、原稿が写っているからもしれませんね。そういうところにも使われています。

また面白い話もあって、これはイギリスのBT(British Telecom)の人が報告しているんですが、通常のシステムに慣れてしまうと、真正面から見つめられた場合にかえって奇妙に見えるというのです。
通常のシステムは、カメラがディスプレイの上に設置されている形が多いんですが、その位置から撮ると少し伏目がちの映像になります。
これは人種によっても、多少異なるかもしれませんね。まっすぐ目を見ないと信用できないという国もあるでしょうし、日本のようにいくらか逸らしたほうがいいという国もあるでしょう。視線は一致した方がいいんでしょうけども、絶対条件とはいえないのかもしれません。

また、カメラの位置がどこかにあるかによって、印象が大きく変わります。
図5は、ディスプレイのどの位置に置いた方がいいかということをテーマに、カメラの位置を左右上下に9度ずつずらしたものです。9度という数字には意味があるんですが、これはあとから説明します。

@の映像は、カメラを真正面に置いた場合で、ハーフミラーを使ったシステムもこのように見えます。
Aは上にカメラを置いた場合で、少し伏目がちに見えます。
Bは下にカメラを置いた場合で、上を見ているように見えます。
Cは横にカメラを置いた場合です。

Aは少し伏目がちながら、自然に見えますよね。Bは同じ9度という角度ながら、「なぜ上を見ているの?」とひどく不自然に感じます。Cはそっぽを向いたような印象も受けます。

図6は、日本電気の佐藤さん、三浦さん、永田さんが最初に発表した「映像電話における撮像管の位置に関する検討」のレポートです。1968年4月のものです。
一見複雑そうな図になっていますが、テレビ電話のカメラがどこの位置にあればいいのかを探るため、画質評価主観評価試験としていろんなものを被験者に見せて、カテゴリー尺度として1〜5まで評価してもらっています。カテゴリー尺度が図7です。

佐藤,三浦,永田:映像電話における撮像管の位置に関する検討
図6:テレビ電話におけるカメラ位置
(画像をクリックすると拡大表示されます)


画質評価主観評価試験のカテゴリー尺度
図7:画質評価主観評価試験のカテゴリー尺度
(画像をクリックすると拡大表示されます)

検知限・許容限というのは、すでに確立されている視感評価実験の1つの指標です。平均評点で検知限界は4.5、許容限界は3.5です。

検知限界4.5というのは視差2度に値します。検知限であろうとするとハーフミラーのような仕組みが必要です。
許容限界の3.5は、カメラが上部に設置される場合なら9度です。ここから9度という数値が出ています。
佐藤さんたちの実験データは、許容限の上下左右の範囲が非対称です。つまり、カメラを上に置けば許容限は9度なのですが、下に置くと9度では外れていますし、横に置くとますます外れてしまうことになります。人はこういう風に感じているという実験データでもありますね。

佐藤さん達の実験はテレビ電話のためのもので、テレビ会議も最初はこれを参考に設計していましたが、ディスプレイのサイズがどんどん大きくなるにつれて、徐々にそういうことに構っていられなくなっているようです。会議室全体に映すような大きなシステムでは、9度は優に超えているはずですが、大人数だとひとりずつが小さいので、あまり気にならないのかもしれません。


テレビ電話とテレビ会議の検知限界・許容限界は異なるのでしょうか。

大久保先生

1970年代にテレビ会議で実験を行った方がいらっしゃいますが、結果はそれほど違わなかったようです。なので、佐藤さん達の行った実験結果がガイドラインになると思います。
いずれにしても、検知限・許容限が非対称ですよというのは、非常に面白い発見だと思います。

これも余談になりますが、第3世代携帯と呼ばれているFOMAにもテレビ電話機能がありますね。カメラをどこに設置しているのか興味があったので調べたところ、右下に置いてある機種もありました。
これはヒューマン・ファクタ的にはいいデザインとはいえません。もしかすると、設計者は実験結果を知らなかったのかもしれませんし、小さい筐体にいかにカメラを納めるのかを優先した結果かもしれません。
画面が小さいので、多少腕を伸ばして顔から離せば9度には入るようですが、せっかく古くから知られたデータがあるのに、残念だなとは思います。


視線一致の問題を解決し、かつ普及するような形での製品化はできていないんでしょうか。

大久保先生

視線を一致させた製品があるかという意味では、まだ未解決です。
FOMAも一致していませんし、テレビ会議システムもディスプレイが大きくなりつつあるため、さらに難しくなりました。今後新しい技術が出来たら解決するかもしれませんね。
1つだけ上手い処理だなと思ったのは、某英会話教室のお茶の間レッスンです。分割された画面の中心にうまくカメラが配置されるようにできているので、これはひとつのアイデアだな、ずるいのではないか、と思いました。


※本文中に掲載された図表のうち出典記載のないものは、大久保先生の講義資料を元に作成したものです。

――次回は引き続き、「テレビ会議に関わる人間要因(ヒューマン・ファクタ)【映像2】」を掲載します。



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