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テレビ会議教室13.IPネットワークの抱える課題【QoS】

13.IPネットワークの抱える課題【QoS】

前回は、IPネットワークの抱える課題のうち、セキュリティについてご説明いただきました。今回はQoSについてお伺いします。

オーディオビジュアルなどのリアルタイム通信が普及するにつれて、IPネットワーク環境におけるQoS(サービス品質の保証)の必要性も高まってきましたね。

大久保先生

IPネットワークの弱点の1つはQoSです。
固定電話やISDNは回線交換なので、一旦接続すればそのネットワークのリソースを確保し続け、与えられた品質が途中で変更されることはありません。しかしその分高価なので、パケット交換のIPネットワークが普及しました。
しかし、テレビ会議やIP電話などのリアルタイム通信にいまのIPネットワークが適しているかというと、必ずしもそうではないような気がします。


パケットベースのネットワークは、もともと電子メールのような非リアルタイム通信には非常に効果的か つ経済的です。最近はビジネスでも、電話より電子メール利用が主流になり、データの通信量が増えていることは間違いありません。しかし電子メール、あるい はFTPでダウンロードするようなデータは、多少の遅延は許されるわけです。
また、現在のIPネットワーク環境は、ブロードバンド化して全体的に容量が大きくなっていますので、品質を保証するといわなくても満足できるレベルに達していると思います。


しかし世の中の流れは、安価なIPネットワークで、オーディオビジュアルなどのリアルタイム通信も行いたいという方向になっています。
そこには、少し相容れないものがあるように感じています。
パケットベースのネットワークは、ベストエフォートというのが基本です。オーディオビジュアル情報をパケットネットワークで送ろうとすると、結果的に情報 が途中で捨てられたり、あるいは届くまで待たされることになります。この点が、リアルタイム通信と馴染まないと思うのです。

IPネットワークで品質保証を行う条件は何でしょうか。

大久保先生

IPネットワークでは、通信に関わるプロバイダが数珠繋ぎになっています。いわゆるヘテロジニアス(heterogeneous、混成系の)な環境ですね。
具体的には、ネットワークプロバイダが1社ではなく数社関わっていて、さらに両端にはホスティングなどのサービスプロバイダがあるという状態です。この状 態でend to endに品質を保証するのはたいへんなことです。各自それなりに努力を重ねて、少しずつできるようになるのが現状ではないかと思います。


回線交換ベースの電話網では、一旦繋いだら繋いでいる間は品質が変動することはありません。通信を受け入れたものは品質を保証し、保証できない場合は断ります。これをアドミッションコントロールといいます。
IPネットワークでのアドミッションコントロールの第1歩は、end to endが希望する「こういうサービスが受けたいんだ」という要望が、関係している全プロバイダに伝わることだと思います。次に、それに見合った伝送品質を 確保しなければなりません。
そのためには、まずサービスプロバイダ間で、end to endの要望が情報共有されなければなりません。その次に、サービスプロバイダが使っているネットワークプロバイダにその情報を伝えて、もしネットワーク プロバイダの伝送品質にレベルがあるならば、それに対応させる必要があります。なぜなら、一つの通信に関わる複数ネットワークプロバイダの品質のレベルが 各自で違うと、end to endの品質確保ができないからです。
極端にいうと、あるネットワークプロバイダはまったく品質を気にしていないのに、別のネットワークプロバイダは最高級のものを用意しているかもしれませ ん。そうすると品質がマッチングしないので、結局トータル的に望ましい品質が確保できないということになるのです。そこが難しいところですね。
このように、パブリックなインターネットで品質を確保するというのは、なかなか大変なことです。

ヘテロジニアス(Heterogeneous)

英単語としては、homogeneous「同質の、均質の」の反対語で「異質の、異種の」といった意味を表す形容詞だが、IT関連で使われる場合は、「ヘテロジニアスな環境」「ヘテロジニアスなネットワーク」といった用例が一般的。日本語としては「異機種間接続」「異機種混在環境」といった語が対応する。

回線交換でも使用ピーク時などがあると思いますが、どのように品質保証をしているのでしょうか。

大久保先生

それは電話でいうと呼損です。
たとえば、64kbps通信の場合には64kbpsの帯域をend to endで確保します。それが通信の途中で変わることはありません。もちろん、それを日本全国民が一斉に行ったらリソースを確保できないわけです。もし、途 中で品質が落ちてしまう場合には、いっぱいになっているところを通らないようにするのが回線交換の設計思想なんですね。
だから若干の呼損を許して、たとえば100回かけたら1回はネットワークが混んでいて繋げないということがあります。その場合は、「話中」として最初から繋げないのです。


パケットベースのネットワークの場合には、そうではなく、接続要求が行われたものはとにかくすべて受 け入れます。ただし回線容量が限られているので、みんなで平等に分けることになります。TCPとUDPでは条件が違いますが、TCPの設計思想では、たと えば容量100のところに100人がいれば、みんなで1ずつ使います。10人ならば10ずつ使うわけです。使用者からみると、接続した後にその時の使用人 数によって通信速度が変動するんですね。
一番簡単なのは、どれだけみんなが使っても損失が起きないような大きな回線容量にすることなんでしょうけれども、それは現実には難しいですね。
UDPの場合はどんどん送ってしまうので、途中で送れなくなった場合にはパケットロスが生じます。

たとえば多地点接続を行っている場合など、ある拠点のネットワークがよくないために全体がゆらいでしまうことがありますね。

大久保先生

回線交換の場合は、品質保証されていますが、IPネットワークの場合は条件が個々に変わってしまうのが非常に難しいところです。
テレビ会議システムのベンダーさんが、製品だけでなくネットワークのコンサルティングも担当しているのは、このあたりが理由なんでしょうね。
自らネットワークにも関与して、品質を確保しようとしているのだと思います。

要求された品質を提供できるようにするのが、パケットベースのネットワークでの課題ですね。

大久保先生

現在、全ITUをあげて、NGN(Next Generation Network)というプロジェクトを行っています。QoS保証型のIPネットワークサービスを実現すべく取り組んでいますので、近い将来には実現すると思います。


また、スマトラ沖大地震及びインド洋津波被害発生以来、緊急時の連絡と災害復旧・救援のための通信がテーマになっています。発生そのものは防ぎようがないので、災害をなるべく緩和するよう、早期警報などにネットワークを使用しようという活動です。
このテーマには、パケットのプライオリティといいますか、どの情報を先に転送しなければならないかという問題がからみます。災害時の通信が最優先になると思うんですね。
そういう通信や端末のクラスごとに扱いを変えることも、今後の基本になると思います。

回線の品質保証が行われた後は、何が課題になるのでしょうか。

大久保先生

第11回(テレビ会議に関わる人間要因(ヒューマン・ファクタ)【映像と音声の相互関係】)でお話ししましたが、最近は「遅延」について一番興味を持っています。
オーディオビジュアル通信では、遅延はなんとか解決して欲しい部分です。時間の要素の品質は、特にリアルタイム通信では大切です。ここに、皆さんの関心を呼び起こしたいと考えています。


パケットの通信の弱点の1つは、パケットを作るために遅延したり、パケットを宛先に振り分けるために 遅延が発生するというようなことです。また、もしパケットロスが起こると、リアルタイムの通信では、普通は再送しません。再送できないと言ったほうが正し いですね。もし、ネットワークのレイヤーでは再送しないとしても、それはアプリケーションのレイヤーでカバーしなければならないことですから、それが遅延 に繋がってくるということになります。
end to endで遅延を少なくし、かつリップシンクを取るというのがテレビ会議のQoS(サービス品質)です。
これまでは、ブロードバンドという広帯域性を画像品質の向上に使ってきたわけですけれども、今後は遅延を減らす、あるいはリップシンクを確保する方向に使って欲しいなと、個人的には思っています。

今後デバイスの処理が速くなれば、映像符号化の遅延などが解消されますか。それともブロードバンドを利用することの方が圧倒的に効果が高いのでしょうか。

大久保先生

まずは帯域ですね。
1枚の映像を符号化するときの情報量は一定ではなく、複雑な映像の時はたくさんの情報量が発生し、簡単な映像の時は少ないわけです。限られた帯域幅では、 複雑な映像を1枚送るだけで時間がかかってしまいます。だから複雑な映像がたくさんあるときにはコマ落しをしたり、落とさずちゃんと送ろうとすると時間が かかったりするのです。しかし広い帯域幅があれば、この点は解消されますね。
1フレームの間に発生した情報量を1フレームの間に送りきれてしまえば、バッファーをして貯えるために遅延が生じるということはなくなります。今後はそういう風に帯域幅を使えるようになるのではないかという期待はしています。


特に最近はアクセシビリティ (誰もが通信で運ばれる情報を享受できること)といいますか、体が自由にならなくなったことに配慮する方向になってきています。身障者に対してだけではな く、健常者であっても高齢になればたとえば身振り手振りに頼らざるを得なくなるなどそういう考慮です。現在ではこれが、ITUでの一つの流れになっていま す。しかし耳の聞こえない人に手話を使うとなると、コマ落ちした途端に意味が通じなくなってしまうんです。
商品を売る側の立場になると、その場で表示される映像が綺麗な方がいいのかもしれませんが、使う側の立場からは、遅延なく届けてくれる方がいいわけです。

次回は引き続き、「IPネットワークの抱える課題【NAT/Firewall越え】」についてお伺いします。

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